
今回は、フリーランスとして大学生の就職支援に携わっておられる(取材当時 ※2020年6月25日)天野 裕介さんのインタビューです。専門学校の教員としてキャリアをスタートされ、人材紹介会社のコンサルタントに転職、その後医療法人事務長を経て、歯科医院と管理栄養士を繋ぐ役割を担いたいと「ココロツナグ」を起業され、現在はフリーランスとして活躍されています。これまでのキャリアについてと、歯科医院での管理栄養士の活躍支援など医療分野のキャリア人材支援・採用支援について、お話を伺いました。
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CDA資格、キャリアコンサルタント(以下、キャリコン)を取ろうと思われたきっかけを教えてください。
将来的に大学の教員になりたいと考えていたところ、大学のキャリアセンターの職員から「大学で就職支援をするためには、何かしらのキャリアの資格を取っておいた方がいい、これからは全員が資格を持っている時代になる」と言われたことと、独立のタイミングと重なり、キャリコン資格を取るため養成講座に行くことにしました。
独立のきっかけを教えてください。
歯科医院で事務長をやっている時に、管理栄養士を採用することになり、歯科医院での管理栄養士の活躍に今後の可能性を感じました。ただ歯科の管理栄養士をサポートする専門機関がこれまで全国に一つもなかったこと、国家資格である管理栄養士の資格を活かしている人が50%に満たないという現実があり、歯科医院が一つの受け皿として管理栄養士が活躍できる場面を作りたいと考えたのが起業のきっかけです。またこの思いに共感いただき出資者がいたことも大きなきっかけです。
キャリコンとして起業を考えている方へ、独立された先輩としてアドバイスをお願いできますか?
起業もキャリアの延長線上にあると考え、これまでの知識・経験・人脈によるものが大きいと感じています。また短い期間での成功を考えれば、専門性や独自性を持つことだと思います。業界でも、年齢層でも、自身の得意な範囲を持っておいた方が仕事を得やすいのではと思います。一方で起業時はこだわりを捨て幅広い依頼をひたすらこなすというやり方もあると思いますが、やはり最終的には何からの専門性が重要であると考えます。
キャリコン取得後、歯科衛生士、管理栄養士、臨床検査技師など医療分野を中心とした人材の支援をしようと思われた理由を教えてください。
起業のきっかけにも通じるところではあるのですが、自分のこれまでのキャリアを活かせるとしたら医療法人で求人・育成のサポートができるということ。特に管理栄養士と歯科衛生士というところですね。臨床検査技師はたまたま大学からお声がかかる等、ご縁があった感じです。
医療分野に携わる中で直観的に「これだ!」と感じる何かがあったのでしょうか?
そういう発想とは逆でした。人材紹介会社の社員時代になかなか看護師や専門職が採用できない、3年間応募がゼロというお客さんが多く、それは組織的な問題なのか、社会的な問題なのかを考えていく中で、逆に「自分のアイデアで何か変えていけるのではないか」と思ったことですね。また別の人材紹介会社へ転職活動していた際に「人材紹介は向いていない。医療法人で採用担当をやる方が性格的に向いているのではないか」とアドバイスをもらって、医療法人の事務長に方向転換をしていった感じです。
医療分野の人材に関わる際にキャリコンとして意識しておられることはありますか?
法律が絡むような、健康保険の内容・保険点数などは改正・改定されることがあると、業務内容や働き方も変わってくるためアンテナを立てて最新の情報をアップデートするようにしています。例えば現時点で歯科医院での管理栄養士の栄養指導業務は、保険対象にはならないですが、今後何らかの形で対象になるだろうと言われているので、そのあたりの法律はしっかり見ています。
また管理栄養士の多くは医療人として活躍したいという方が多いので、管理栄養士という資格制度を理解するように心がけています。管理栄養士が歯科医院で採用される場合、なかなか専門的な仕事が無く、歯科助手の延長として働いているのが現状です。歯科医院に対しては、管理栄養士という資格を尊重頂くよう働きかけ、管理栄養士に対しては、能力・知識を活かせるように歯科医院へフィードバックをしていくように働きかけています。そして私自身が医療資格を取得していないので、歯科や管理栄養士を取り巻く業界を客観的・俯瞰的な視点で見ることも心がけています。
歯科医院で働く管理栄養士と歯科衛生士の男女比など、現状をもう少し詳しくお聞かせください。
管理栄養士は女性が多く、男女比が1:7とか1:9とも言われています。資格を活かして管理栄養士として働いているのは50%以下と言われています。
また歯科衛生士も女性が圧倒的に多く、50%くらいが資格を活かして仕事をしています。どちらも資格を活かしていない場合は、専業主婦や関係のない職業に就いています。そして結婚・出産・育児などでキャリアの分断が起こりやすい業界と言えます。
女性の管理栄養士や歯科衛生士がキャリアの分断なく仕事をしていくためにはどうしたら良いとお考えですか?
歯科業界全体で育成の考え方や組織体制が変わらないと厳しいと思います。少しずつ改善はされていますが、結婚・出産・育児のバックアップ体制が整っている看護師と比べてみると、体制はまだまだです。「結婚したら辞めてくれ」、「妊娠したら辞めてくれ」という相談も多くあります。大きな医院であれば、産休育休制度や時短勤務を整備し始めているところもありますが、歯科医院のほとんどは歯科衛生士と管理栄養士を合わせて3~4人の規模の個人クリニックです。そういった環境で結婚・出産・育児となると退職するしかない。その上、歯科衛生士については、法律も技術も3,4年経つと大きく変化し、子育て中に技術や知識をアップデートする機会がほとんどありません。看護師のように勤務先でのバックアップ体制を整え、分断なく継続したキャリア構築ができるように考えていく必要があると思います。
歯科医院の採用支援・キャリア支援の具体的な活動内容を教えてください。
主には、スカウトメール送信などの採用支援と歯科医院で働く管理栄養士の専門分野の研修を行っています。
その他、院長先生やスタッフのヒアリングを行いキャリアプランの作成や、オンラインでの面接の仕方などをアドバイスするコンサル業務を担当しています。
これまでの医療分野のキャリア支援のお仕事と並行して、現在は大学のキャリアセンターでもお仕事をされていると伺いました。
セミナーや講義が中心でキャリアカウンセリングの経験がほとんどなかったので、キャリアカウンセリングの現場について経験を積みたいと考え、飛び込みました。大学での仕事は、楽しい面もあり、難しい面もあります。カウンセリングは相手主体とは言っても、学生の中には全く動かない完全に受け身の学生がおり、時には指導したり導いたりする必要はあります。どこまで指導するのかなどバランスを保つのが難しいと感じています。
今後のキャリアプランを教えてください。
最初にもお伝えしましたが、最終的にはキャリア関連で大学の教員を目指しています。また歯科医院で活躍する管理栄養士の育成と大学生のキャリア支援を両立しながらキャリアを積んでいこうと思っています。また今後は高校生等、新たな分野への挑戦も考えています。将来的には、パラレルキャリア人材になりたいですね。一つのキャリアよりは複数のキャリアが自分には合っていると考えています。
現在、新型コロナウイルス感染症の影響が様々なところで出ていますが、キャリコンとしての考えをお聞かせください。
最新のビズリーチの調べでも転職希望者の約半数が新型コロナで「“キャリア観”が変化した」と答えています。説明会・面接のオンライン化や職場見学の中止など就職活動・転職活動の在り方が変化してきており、学生支援を行なっているキャリアコンサルタントとしては支援の方法を、企業内での採用に携わっているキャリアコンサルタント は採用手法を、それぞれ変えざるを得ません。今後の経済動向によっては、キャリアコンサルタントの重要性が増してくるように思います。オンライン化が進む中で人間関係の変化、それに伴い働き方も変わってきています。そのためには自分の強みを可視化し、企業に依存しない自律的なキャリア形成の必要性を感じています。そう考えると個人のキャリアに伴走するキャリアコンサルタント の活躍の場がどんどん増えていくと考えます。
最後にキャリコンの普及のために、何が必要だと思いますか。
世間一般的に有名なキャリアコンサルタントの登場が必要だと思います。まだまだ知名度が低く、キャリアコンサルタントの知名度が浸透することで、何をする資格なのかを理解してもらえるはずです。
今後は特に企業領域、社内キャリアコンサルタントの存在が“鍵”を握っているように思います。企業内セルフ・キャリアドックを増やそうとしている中で、企業の人事担当者でキャリアコンサルタントを取得する人が増えてきています。国も企業内のキャリアコンサルタントを増やそうとしている動きがあるので、そういう事例が増え、身近なロールモデルが増えていくと、さらに企業内にキャリアコンサルタントが在籍しているという体制が生まれてくると思います。そうするとさらにキャリアコンサルタントの知名度も上がってくるのかなと思います。
本日は、貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを受けてくださったキャリアコンサルタント